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自分を深める学習授業19年の実践を終了して(2003年~2021年) 

投稿日2022/03/17

自分を深める学習授業19年の実践を終了して(2003年~2021年) 

2022年3月 

東京成徳大学高校教諭 野中修也 

 

本校のオリジナル学習である「自分を深める学習」は今年度で19年間の授業実践を終え、次年度に20周年を迎えます。立ち上げ当初の状況を振り返ると、19年もよく続いたなあというのが正直な感想です。このように続けることができたのは、「東京成徳生の素直な感性と真摯な生きる姿勢・態度」のおかげであると、卒業生を含めた生徒皆さんに深く感謝いたします。前回の投稿にも授業成立過程について軽く触れましたが、今回はもう少し掘り下げてお伝えします。 

 2年間の授業立ち上げ準備期間を学校からいただき、実践内容を3人の教員で検討、精査してきました。初めて行う試みであったので、教材づくりに「四苦八苦」したことを鮮明に思い出します。教材作成においては以下の点に留意しました。 

1 本私学の教育理念の「心臓」ともいうべき「建学の精神」=「有徳の人間・人格形成」を推進する教科として「自分を深める学習」を位置づける 

2 授業実践のコンセプト・キーワードを「人や自然とのつながり・関係性」と「変化し続ける存在としての自己」とする。 

そして2003年にこの授業はスタートしました。 

「実践立ち上げ」で私たち授業者がもっとも悩み苦しんだのは、授業内容・教材が人間の本質的な存在に対する難問であるがために以下の3点です。 

1.哲学的な思索が必要であること 

2.自分の心の声をそっと聴く純粋さと自己内対話能力が必要であること 

3.幾ら考えても「答えが出ないという苦しみ」に対する興味・関心と答えを出そうというモチベーションが持続すること 

その問題点解決のために最も必要であったことは、生徒が向き合うべき「人生の難問」を生徒の興味関心を引く教材、心の琴線を揺さぶる教材に仕立て上げることでした。 

映画・テレビ番組・随筆・小説・童話・詩・新聞記事・コラム・子供のための哲学書・音楽・芸術 等あらゆるジャンルから教材を選びました。 

 その中で最も生徒の心に染み込んでいったのは「映画などの映像」でした。「自分を深める学習」教材の多くをこのDVD資料が占めています。ドラマやドキュメンタリーなど、視覚を通し、出演者などの第3者的存在からのメッセージは、授業を行う教師の発言・指導を超えるインパクトがあるようです。一部教員の体験的自己開示以外は、映像の力のほうが上と言っても過言ではないと感じています(教員の余計な解説はむしろ不要。生徒それぞれの感じ方に任せる。教師は多くを語らない)。 

なぜか?それは自分の感性・心情に教材から直接訴えかけられているように生徒は感じるからです。そのような手法においては、授業で使用する視聴覚教材は私たち授業者の言葉よりも何枚も上手のようです。 

「理性は感性の奴隷」であると言った哲学者がいますが、私個人はそれに同感です。感性が貧弱で良質さを欠くのならば、柔軟性がありかつ鋭い理性は成立しないと思います。 

「理性としての言葉」にならなくても、豊かな感性を持ち、自分以外の他者・自然・社会に「愛を持てる人間」、つまり他人事ではなく、他者・自然・社会に「関心を持てる人間」になってほしいと願います。それが有徳な人間になるための第1歩であると確信しています。 

 そのような有徳性をさらに洗練する内容の教材(命・自己存在の在り方・生き方・全てとの繋がり)を今後も追及していくと同時に、授業を中心とした実践を通して何らかの「気づき」と呼べるリアルな実感が生まれれば・・・と願っています。「知識を授ける=授業」ではなく、生徒と教師が共に築き上げる「共同作業=実践」としての教科の独自性を今後も大切にしたいと思います。